「富士の国やまなし」 第17回Mt.富士ヒルクライム 主催者選抜クラス8位 大島

 Mt. 富士ヒルクライム主催者選抜クラス8位 大島

 





 

皆様御機嫌様。大島山岳大隊長です。もうブログで長尺のレポートを書くような風潮ではないかもしれませんが、注目度の高い富士ヒル主催者選抜クラスのプラチナ集団の一視点を示しておくのは需要があるかと思い、久し振りに此方に投稿します。

 

2020年に出場を予定していたヒルクライムレースは全てキャンセル。2021年も開催の見通しは不明確でしたが、自分の力の及ばない現象について悩んでも仕方無い。例年通りのスケジュールで粛々とトレーニングを積んでいました。ただ今年はハルヒルが中止になったことで5月中旬のパフォーマンスのピークとその反動の著しい落ち込みが無かったため、例年よりも富士ヒルに集中して積むことが出来ました。GWを含め5月の休日を全て高強度の実走練習に充てられ最終的なCTL120程度。体重は絞り過ぎず60kg丁度。極端に尖った仕上がり方ではないですが、身心の充実感が程良く久し振りの最高峰のヒルクライムが待ち遠しく思えました。

 

当日の富士山は雨模様でしたが気温は高目で富士ヒルにしてはマシな方でした。2019年の悪夢のような悪天候と比べたらそよ風です。クライマースーツ一枚に手足にホットバルム適用で完全に凌げる程度。レース直前まで一枚羽織っていた上着を荷物預かりに預け、10分前に最前列に並んで静かにスタートを待ちます。

 

~以下常体~

レーススタート。序盤のパレードをウォーミングアップに見立て、重目のギアで踏み込むと心拍が気持ち良く上がる。高揚感で笑みが零れレースのスイッチが入っているのが分かった。先頭で計測線を踏みアクチュアルスタート。登りが始まるといきなり右から大野選手と池田選手がアタック。え、もう行くの?遅れて数人がブリッジ。私は・・・ステイ!ペースを作ってすぐ先頭を退いたが追走はかなりハイペースで、この逃げは直ぐに吸収された。

 

暫くすると池田選手がまた行った。今度は加藤大貴選手も。最強豪2人が揃ったこの逃げは絶対逃げ切られるやつだと瞬時に悟った私は・・・当然ステイ!選抜クラスの核心は目的を一貫させる所にある。私の目標はあくまでプラチナと入賞であって優勝ではない。言い方は悪いが入賞枠のあるこの集団から圧倒的強者の池田加藤が飛び去ってくれた御陰で集団のペースを握りやすくなる。あとはこの集団をプラチナペースで進め、然るべき所で動いて入賞枠に滑り込む。

 

2回目の逃げに乗った池田加藤以外の選手は中間地点までに全て吸収。タイム進行は59分ペース。集団は10人以上いるので、どこかで仕掛けて分断しなければならない。何せ此方はスプリント600wの音に聞こえし糞雑魚である。この人数で最後まで行ったら入賞は不可能。ローテーションの綾で集団が割れたらすかさず前に行って便乗しペースアップを図るが有効打には至らない。

 

半端なペースアップではこの集団は絞れない。だったらフルアタック1発で集団を叩き割ってやる。しかし単独でアタックを仕掛けて最後の平坦で埋め切れない差を付けるのは不可能。エブセンや森本さんですら無理だったし。ならば5人以下で抜け出して平坦を回して逃げ切る。これだ。自分以上に余力が有り攻めあぐねているように見えた佐々木遼選手、大野選手、板子選手等に後でアタックするから付いて来て協力してほしいと伝える。ついでに後のペースアップに備えて温存してほしいとも伝えた筈だが此方は聞き容れてもらえなかった模様。

 

さてでは何処で行くか。大沢駐車場は斜度が緩く速度が乗りやすいのでアタックは決まり難い。決まったとしてもその後まだ結構登るし私が千切れる恐れがある。奥庭は平坦までの距離が短いのでギャップを稼げない。よろしいならば山岳スプリットだ。

 

大沢駐車場で板子選手が猛烈なアタック。即座に反応し死ぬ気で後輪に縋り付いて(これ決まったかな?)と思ったが集団は人数そのままで意気軒高。え、今ので割れないの?どれだけタフなんだよこの集団・・・。それともやはり大沢はアタックポイントとして妥当ではなかったか。

 

予定の山岳スプリットまでにドリンクを飲み呼吸を整え最高強度に備える。右カーブを抜けスプリットの表示が見え発射しようと思ったら・・・いや向かい風強くない?これではバチクソ踏んでも後ろの風除けになるだけで抜け出すのは無理だ。そっと後ろに退き鬼の形相で先頭牽いている佐々木選手に手を合わせる。御免。

 

予定変更。気を取り直して奥庭フルアタックだ。ピークまでの直登に出たところで布留川選手の横に並び掛け、ダンシングで乾坤一擲最大加速。脳裏には17年の森本さんのアタックが浮かぶ(見てないけど)。これは我ながら掛かってる。後ろを振り返ると、よし誰も付いて来れてない!・・・ダメじゃん!大野君協調してくれ!!もう今更加速を緩める訳にはいかない。フルパワーでピークまで駆け上がり「おい早く来いゴラァ!」と後ろを激励し、ノータイムで平坦巡航開始。

 

単独3位の平坦区間というのは中々満更でもない。御禁制のエアロポジションイーブンペースで進んでいると最初のシェッド中で大野選手到着。「遅い!だが良く来た!全ッ開で行くぞ!!」ああ見えて平坦もチョッ速の大野選手。私と体重差10kgはあるのにイーブンでローテーションが回って気持ち良い。最高速度50km/hでカッ飛ばす。これは行けるか?と思ったが、ところがどっこい迂回路手前で後ろから走行音。佐々木選手が後続を引き連れて追い付いて来てしまった。No mercy. ここまでか・・・。迂回路を回りながら後ろに着こうとするが、追い付かれた動揺でブレーキのタイミングを誤り右カーブを曲がり切れず右側の砂利に突っ込んでしまった。こんなド終盤で嘘だろ!!大いに減速を強いられたが幸い落車は免れメカも無事。必死で追うが先行集団への復帰は絶望的。しかし前の人数は・・・5人!助かった入賞圏内だ!!後ろはまだ遠く追い付かれる心配は無い。最後の直登を勝者のような達成感に満たされながら走り切りゴール。主催者選抜クラス8位入賞。17年、19年に続き3度目の8位。5841秒プラチナリング2つ目獲得。赫々たる大戦果である。

 

真剣にヒルクライム競技を始めてもう9年にもなるが、未だに自分がレースで何処までのレベルで立ち回れるか走ってみないと分からないところがある。今回のレースにしても自分が入賞どころかプラチナに届く走りが出来るかどうかすらスタート前は確証を持てずにいた。特に今回の富士ヒルは一昨年の乗鞍以来19ヶ月振りのビッグレース(赤城はちょっと記憶に無いです)。スタートして高強度の序盤を耐え切り、自分と周りの選手との掛かり具合を比較観察して漸く自分の身体が今日この勝負に堪える仕上がりに至っていたことを知ったときは、長く暗い道を彷徨った末一筋の光明を見出したような思いがした。

 

現在私は39歳で10月に40歳になる。最前線のヒルクライムで勝負する力を手放すときが突然訪れる心の準備は出来ていたが、そのときが昨年自分の知らない内に経過してしまっていたという可能性には心底恐怖していた。今回の富士ヒルで自分の競技力が衰えていないどころか過去最高の水準にあるという実感が得られ、出場の是非も含め色々と思う所があったが思い切って出場して本当に良かったし、難しい情勢下開催を決断してこのような立派な勝負の場を設けてくれた主催者には心底感謝しています。しかし選抜表彰台3位に縮小したのは何と言うか正直しんどいっす。



 


今回発揮した最高のパフォーマンスを更に研ぎ澄ませられれば、ヒルクライム人生の究極目標である乗鞍入賞にひょっとしたら手が届くかもしれない。中止や出場自粛の可能性は当然考慮しているが、もし情勢が好転して出場が叶ったなら今回を超える自己最高のヒルクライムを披露できるようにこれから3ヶ月万全の準備を整えていきたい。

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